りべです。
前回の続きです。
吉田の秘密に迫っていきましょう。
目次
異様な男、吉田
ベスト4。
『現代最強』deltaと『若手最強』マッキーが残ることは誰しもが期待し、予想されていた事象でしたが残る2人はSEASON2からプロになったレイン、ヨダソウマの並び。
レインはおいうリーグの初期から有望な若手として名を挙げられることが多い超逸材です。マッキー、meta、ともくんと並び若手プロ四強と呼んで差し支えないでしょう。
彼らより一足先に受験期を迎えたためSEASON1では空白期間を設けていましたが、復帰早々上野BPTにもよく足を運んでおり、その頃から「最もプロに近いプレイヤー」と称されていました。実際にぷよぷよカップ参加わずか2回目にしてプロ入りを果たしており、生粋の実力派と言えます。
対するヨダソウマは、fronやTSなどと同世代のプレイヤーです。飛車ぷよでの優勝など、プロ入り以降実績をあげつつあります。また、私が以前特集記事を書いたこともあります。
本名は吉田。飄々とした性格の中に熱いぷよぷよ愛を秘めており、ゲームの仕様やシステム、キャラクター、戦術や戦略についての把握はもちろん、各プレイヤーに対する研究・理解力は群を抜いています。そんな本人の試合前の言がこちら。
「わかる人にはわかると思うんですけど、自分がこの面子の中に残っていることは異様なんですよ。ここまで来たら優勝して異様な大会にしたいと思う。」
地力、という観点においては並び立つ面々に一歩遅れを取っている自覚のあるヨダソウマ。相手に合わせ自分の戦略を変えるというフレキシブルな戦い方を好みますが、その分自身の特化した能力には幾分か自信がない、ということなのでしょうか。しかし一見控えめでありながらも、この中で誰よりも不敵な発言ともとれる。場にはそんな異様さのみを残して、つつがなく大会は進行していきます。
新型巨人と驟雨の暗殺者 delta vs レイン
「プロの中でもトップオブトップ。」Tomはかく語りました。
この試合は我々プロ選手もステージ裏で観戦していたのですが、まさしく内容はその言葉に偽りないものだったでしょう。驚嘆や賞賛の声がたびたび上がりました。
なぜかというと強さに満足出来ていないのと楽しめていない部分があったから変化を試みた。今よりも強くなるんじゃないかと思い、感じて挑戦している。かつての強さは失えど新しいことに触れるのは楽しいと感じる。こんな現状でも応援していただいている人がいてくれてすごくありがたい。
— delta@9/28 TGD (@delta_so) September 13, 2019
GTRを主体とすることをやめた、というdelta。巨人の火力を持ちながらも、勝つためへの変化を厭わない。独自の手順からの不規則土台を巧みに操り、『新型巨人』の落成式と言わんばかりの試合展開でここまで勝ち進みました。
対してレインはその巨人へのウィークポイントを徹底して突きます。細かい攻撃を絶やさず送り、火力という武器を安易に使わせないように立ち回ります。
間断なく、矢継ぎ早に。それは雨のように。 レインの構える刃は、巨人の喉元に何度も何度も突き付けられます。そんな状況下でも応手を見つけて適量対応を絶やさないdelta。彼の力と技のハイブリッドこそが、巨躯に対するエネルギーであることを私たちは何度も見てきました。
しかし、その鉄壁の巨人に突き立てられる一筋の矢がそこにはありました。
割り込み。
自分の連鎖がまだ続いていようと、関係なく相手へと降り注ぐお邪魔ぷよ。
自身の先の攻撃を相殺されきる前に、大きな二の矢を放つことで先の攻撃を差し込むことができるという高等テクニックです。この大舞台で自身の攻撃量と相手の対応量の把握、何よりも圧倒的な判断速度を要する中、平然とやってのけたのがレインでした。
一歩間違えれば自分の首を絞めかねない大きな連携追い打ち。緊張の中でありながら冷徹に勝機を伺い、驟雨に潜んだ暗殺者がそこにいたのです。「ぷよぷよ降れ降れもっと降れ」と、願うだけではなく自らの手腕で叶える男が。
決勝進出への決め手となったこの試合も、『新型巨人』の手順の隙を突いた急襲の2連鎖トリプルによるものでした。十全の警戒をしながらも大胆に差し込みにいくアサシンレイン。
どんな状況下においても惑わない平静さは、彼がこれまで生きてきた世界に血の雨が降っていたことを伺わせます。今回は 巨人討伐クエストを無事こなし、その実力を誇示する結果となりました。
吉田ワールドへの招待状 ヨダソウマ vs マッキー
ヨダソウマにとっては鬼門と言えるこの試合。ただし本人は、マッキーの試合内容やコンディションを見て、十分に付け入る隙はあるだろうと確信していたことでしょう。
私も導き出していた傾向である「今日のマッキーは大会特有の堅さがある」という情報は、戦上手な彼が独自の読みに含めないはずがありません。
その証左が、一戦目における早い2連鎖ダブルからの伸ばしによる勝利です。マッキー側の本線の確定が早い傾向にあることを事前に予期しており、アグロ仕掛けで本線発火を誘うことができると読んでの行動。試合が始まる前から、戦いは始まっているのです。
ヨダソウマらしい人読みと、迷わない後伸ばし力をふんだんに駆使した一本と言えるでしょう。取れる試合を労せずして取るのが、吉田家家訓なのか。
しかしマッキーも同じく相手の傾向を読みに入れて動くタイプのプレイヤー。ヨダソウマも2本目以降同じ攻撃が通用するとは当然思っているはずもなく、中終盤へのバトルフィールドの移行を余儀なくされます。
3本目は非常に慎重に推移していた試合でしたが、マッキー側が1連鎖ダブルで1段差し込んだ瞬間、最短での詰め筋2連鎖ダブル3連鎖を発火。実戦中に詰めぷよぷよを解く速度において、彼の右に出るものはいないでしょう。まさしくぷよぷよ界の藤井聡太。
誰もがマッキーの決勝進出濃厚かと思い始めたその時、すでに吉田ワールドの扉は開かれていたのです。
光る吉田の豪胆さ。
残り1本まで追い詰められながら、「いざとなれば本線に頼ってくる」情報と読みを信頼し、中盤で後手に回ることを選択。リソース差を活かし中盤戦で圧倒してくる戦い方も強烈に脳裏をよぎり、どちらの戦い方も警戒しなければならないマッキーに対し、悠々と相手の行動を待ち本線を先打ちさせることに成功します。
当然のように得意の後伸ばしを成功させ、逆にマッキーを追い詰める側へと転じるヨダソウマ。
ええーー!?!!??!!??!!
え????
ヨダソウマはベスト4のメンバーの中で、誰よりも『人間らしさ』がありました。
かつておいうリーグ30先の最後の1本で自害してしまったり、
ぷよテトA級リーグでTomに30-5で撲滅されたり、
ぷよクロの使用キャラクターを自分のイラスト付きで調べたり。
人外魔境のはびこるぷよぷよチャンピオンシップにおいて、彼の『異様さ』とはその『人間らしさ』に他ならなかったのです。
人が人ならざる者達に挑む姿!
人はそれを『主人公』と呼んだ! !
だからこそ私達は彼を応援したくなる!!!
まだ一本ある!立ち上がれ!!吉田!!!!
マッキーに赤で発火されてしまうと9割方不利!そんな状況下に追い込まれたとしても!
勝利を信じる心こそが!!
奇跡を起こせるのが!!
人間なのだと!!!
それぞれの思いを背負って… レイン vs ヨダソウマ
どちらが勝っても初優勝な戦いとなった決勝。
果たして200万を手にするのは、満を持してSEASON2の彗星として現れたヒットマンことレインなのか。その持ち前の人間らしさでMCを、会場を掌握し味方につけてしまったヨダソウマこと吉田なのか。その戦いの行方は神のみぞ知る。
2人の駆け引きは刹那の領域に到達。「引ける」「引かせない」を互いに押し付けあう力勝負の展開に、一歩先んじたのはヨダソウマ。一見引けなさそうな緑を引き切り、レインの猛襲を掻い潜ってての本線発火に成功。
決して本線を打たれても不利ではなかったはずのレインも、この運命力の強さに幾分か動揺してしまったのか。繋ぐために必要な赤を置き忘れてしまい、ヨダソウマの本選を返しきることができず。1セット目を明け渡してしまいます。
このとき彼の脳内には200万円がちらついていたのか。それともぷよぷよアサシンとして生きざるを得なかった幼少の頃の苦い思い出か。それは本人のみぞ知る、といったところでしょう。少なくとも、彼の心の陰にしとしとと雨が降りはじめていたからこそ、肝心な場面で気が逸れてしまったのかもしれません。
しかし、2セット目のレインの眼差しは仕事人のそれに戻っていました。相手が吉田であろうと関係ない。ただただ任務を遂行し、2連鎖トリプルを首筋に撃ち込む。それだけの話だと。今までだって、そうやって生きてきたじゃないか。
その放たれる殺気に、ヨダソウマは今まで感じたことのない恐怖を覚えました。今までの彼にはあまり見られなかった『迷い』が生じ、2セット目を落としてしまいます。
(ここに立っていることは果たして自分に相応しいのか?)
(今日の自分は先輩方に失礼なことをしていなかったか?)
(この後JeSUブースだけど弁当っていつ食べればいいんだ?)
自問自答が繰り広げられそうな気持ちを強く抑えて、ひたすら盤面に集中する。
それでも、このプロシーンの最先端で争っているのはコンマ数秒の世界。わずかな迷いをもが、勝敗を決するファクターと成り得るのです。
3セット目。先に思念を振り切り、気づきを得たのは吉田でした。
2連鎖トリプルを打たれるならば。
2連鎖クアドラプルを打ち込めばいい。
ここまでがむしゃらに戦ってきたヨダソウマにとって、全ての道のりは平坦ではなかった。事前に備えた情報を武器に実戦で一つ一つ答えを探してきたからこそ、ここまで辿り着くことができた。だから一歩先んじて、レインを破壊する策を考え付いた。
フルスロットルな吉田の頭脳は、自らの世界を作り上げます。
「異様な大会にしたい」
知らず知らず、異様なまでに募ったその思いは、急速に具現化へと近づいていくーー!
TOKYO YOSHIDA SHOWの開演へと!!
(まさか自分よりも大きな仕掛けを、この大舞台で敢行できるのか…?)
吉田の気迫に気圧されたレインは、構える形が幾分か硬くなってしまいました。しかしそんな中でも吉田の3連鎖の仕掛けに2連鎖ダブル3連鎖で応ずるなど、培っていた経験は彼を最善手へと導いていました。アサシンとしての本能のみが彼を突き動かしていたのです。
これが達人の、辿り着く境地。
ですが、吉田は自身が不利とみるとすかさず小カウンターを形成。2連鎖を整地しながらレインに返していきます。彼らの間には、言葉を発さぬ会話が確かに存在していました。200万という金額の多寡は、既に彼らにとって些細な出来事に過ぎなかった。それぞれの生き様そのものをぶつける瞬間が、今ここだったのです。
そして吉田は、レインの4列目の致命傷を見逃しませんでした。寸断された連鎖を瞬時に理解し、本線を大幅に崩しての追い打ちにシフトします。
椿彩菜の嬌声は、吉田の一番長い日が、終わりを告げる音でした。
吉田の願い
一か月ほど前、Rush Baseに行ったときのこと。
私とdeltaは、ヨダソウマの秘められた思いの片鱗を、初めて耳にしていました。
「例えばぷよぷよ界がもっと盛り上がったり、さらに先の戦略や戦術に辿り着いたりすることができるのなら、仮にその対象が僕じゃなくても構わない」
当然、自分のやりたいことをやる、というのがベースであることに揺らぎはないにも関わらず、彼の根底には自己顕示欲があまり見られないのです。
年不相応な達観というべきなのか、客観性というべきなのかはよくわかりませんが、個人的には(なんだかやっぱりこいつはすごいな)という感触を受けて。彼は「プロになりたい!」「誰かに勝ちたい!」みたいな自己実現欲求に支配されているのが当然ともいえる年代でありながら、まったく別の景色を見ている。
だから、人の観察をよくすることができるし、広義的にモノを捉えることもできて、独特な世界観を持った吉田ワールドを展開できるのだな、と私は謎の感銘を受けました。
代わりのいない人材の一人と言えるでしょう。
誰よりも人間らしく、誰よりも人間離れした男。
吉田をこれからもよろしくお願いいたします。
ではまた。