8/7 4:30。
帰路の太平洋上から、この記事を書いている。後8時間もすれば、ソウルに着くだろうか。
僕は、思い上がっていた。
世界というフィールドにおいて、あまりにも自分の存在はちっぽけで、取るに足らないものだと感じさせられた。
それくらいに、ラスベガス、そしてEVOは僕の脳髄にダイレクトな衝撃を与えたのだ。
旅路の細かな出来事については、ぷよぷよキャンプ側にまとめようと思う。
ここから記すのは、ぷよぷよという競技の『村社会』が、どれだけ他分野と水をあけられているかの話である。
今回僕が参加したのは、AnimEVO内サイドトーナメント。ぷよぷよテトリスのスワップ部門と、ぷよぷよ部門だ。
参加者は、40〜50人程度といったところである。
僕は、幸運なことにその2部門において両方優勝した。
この「世界大会優勝」という肩書はものすごく強いことを理解しているし、実際に評価もされている。本当にありがたいことだ。
だが、それを得れば何かが突然変わるだなんていう、大層な夢物語は追っていなかった。
サイドトーナメントは、あくまでサイドメニューであり、メインディッシュではない。その実情はわかっていたつもりだった。
メインの種目の参加者数をご存知だろうか。
ストⅤで約2500人程度と言われている。
数字が違うなんていうデータ自体は全く現実味がない。
僕はそのファイナルを目の当たりにしてようやく芯の芯から気付かされた。
規模が、格式が、熱意が、何もかもが自分のいる村と違いすぎるのだ。
国内において最大規模であり、現状200人の参加者を収容できるぷよぷよカップ。
その上に属するぷよぷよチャンピオンシップ。
そういった舞台で見せ場を作ったり、連続入賞している僕は、一廉のプロプレイヤーとして自信を持っていたつもりだった。
村を、町に育ててきているつもりだった。
僕は、あまりにも小さい。
今のぷよぷよテトリスというタイトルの力も、まだあまりにも弱い。
そんな自身の矮小さを感じたせいで、EVOにいる中で「ぷよぷよの世界チャンピオンです」と言うのが、なんだかとてもはばかられるような気がした。
日頃図々しいこの僕が、である。
ファイナル後のアフターパーティー。
ストⅤのファイナルのライブビューイングが終わり、クラブ風に彩られる会場。
雪崩込むファイナルの観衆。
実際にステージで戦った彼らは、英雄の凱旋としてその場の人々に盛大に讃えられるのだろう。
そんな中、まだ面識もない僕は一体、どんな顔をして彼らに接すればいいのだろう。
わからなかった。
その場にいるのに、同じプロゲーマーという名を戴しているのに、全くわからなかった。
ぷよぷよの界隈内では最も外部に働きかけたり、実力を兼ね備えている自負があるにも関わらず、彼らの存在は、ひどく遠くに感じた。
少しは、彼らに近づけているだろうかという僕の愚かな思い上がりは、僕自身の口を閉ざすこととなった。
どうしても僕は、恥知らずにはなれなかった。
彼らの前でプロゲーマーを名乗るのは、なんだかとても恥ずかしいことのような気がした。
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洋上は、只今5:30。
今、隣で眠っている謳歌という男。
まさしく世界を巡り、世界を知っている者であり、世界から認められるに至った男である。
彼の助けなしには、僕は世界のフィールドに立つことすら困難だっただろう。
プランニング、通訳、引率、撮影や配信など何もかもを手がけてくださって、本当に感謝の意しかない。
そんな彼が、僕という個人に興味を持ち、競技としてのぷよぷよという村にも関わってくれている。
ラスベガス在住のパフォーマー兼経営者であるYASUさん。
謳歌さんのパイプを通じて、3日間も車での移動やお食事などのお世話になってしまい、こちらにも感謝と畏敬の念しかない。
全くゲーマーというような出で立ちではないのだが、話しているうちにぷよクエの大連鎖チャンスのトレーニング動画を作っていたことが発覚。
さらに僕の作っていた大連鎖チャンスbot(問題や解答を載せるbot)も見ていたらしい。一体どういう縁なのか。
彼が言うには、「ラスベガスに来たいと思っているゲーマーを支援する取り組みをしてみたい」そうだ。
実際にパフォーマーを海外向けにプロデュースする場を作ったり、渡航へのサポートをするような企画をやっているらしい。
ゲーマーに対しては、近くのe-sportsスクエアを貸し切ったり、知人のシアターなどを利用して現地練習ができる場所作りなどに貢献できるそうなのだ。
それを聞いて、僕は一瞬「めちゃくちゃいい話じゃん!」と目の色を変えた。
また、スポーツトレーナーであり、鍼灸師でもあるWPPの吉田さんという方にもお引き合わせいただいた。
眼精疲労に対する治療など、e-sports向けの活動にも親和性があるのではないかということで、興味深いお話をたくさん伺えた。
これもまた、「いや僕めっちゃサポートしてもらいたいわ~~」という話である。飛びつきたくなる。
……
一呼吸おいてよく考えた僕は、つらくなってしまった。
彼らの活動や提案に対して、僕は大手を振ってぷよぷよを紹介しきれないことに気づいてしまった。
ゲーマー達の意識の方が、全く追いついていない。
サポートされるべき大舞台も、まだ用意しきれていない。
仕事として既に動いている彼らに比べて、大半のゲーマーの意識は生半可である。
彼らはEVOという上澄みを見て、ゲーマーがこれからの産業となる可能性を感じて話を持ちかけてくれているのに、
濁りの傍で、ゲーマーという集合体を如実に見て生きてきた僕には何もすることができない。
情けなくなってしまった。
世界で何かを始めようとしている人々の動きに対して、僕だけが追いつけていない。
僕のいる村だけがまだ何も変われていない。
ひたすら、無力さを実感せざるを得なかった。
僕は、世界で動く人々や、世界を知る人々に対して、一体何を返せるのだろう。
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6:30。眠れない。
この間、ちょもすさんがブログを書いているのを見た。
勇者杯とEVOとRAGEについてだ。
要約すると、
『身の回りの人間がどんどんすごい人になっていってて無力さを感じる』
というような話だ。
本当に。
毎度毎度このカードゲームオタクは、俺の心に刺さる話を書いてくれる。
何かを知れば知るほど、先を見れば見るほど、自分の無力さは浮き彫りになっていく。
いやだって彼だって、勇者杯の解説なんていう周りから見たらスーパーすげえ人な部類のはずなのにですよ。
なんか最高顧問にもなってたし、無力感どころか全能感に溢れてろよテメーって話じゃないですか。
でも多分、彼と僕は似ているんですよ。
彼から見たときに僕はすげえ人の枠に入っていて、その僕は彼同様無力感に苛まれているっていうわけのわからん状況なんですよね。
セルフ卑下スパイラルというか。
斜に構えてるようなフリをするくせに、
優勝して立たされて本気で怒ったり。
解説してステージで泣いたり。
周囲と比較して無力さに悩んだり。
そういうゲーマーとしての感情に素直に本気で生きている彼が、僕にとってはすごく魅力的なんですよ。
おそらく、同じく本気で動いてる者だからこそ、親近感がわく。
そう。
だから僕が無力感を抱いているのは、ぷよぷよの先々を本気で考えているからなのだろうなと再認識した。
足りないものが多すぎる。
僕ひとりでは何も補えない。
ムーブメントを興すのも容易ではない。
自分の生活だって考えなければならない。
僕が今できる範囲は、どこからどこまでなのだろう。
どうすれば、内や外にもっと大きな影響を及ぼせるのだろう。
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7:30。
ラスベガスでの体験は、まさしく夢のような日々だった。
ファイナルの狂騒を実感したときの胸のざわめきは、おそらく生涯忘れることがないだろう。
でも。
僕は、EVO2018で夢を見てきたのではない。
現実を見てきたのだ。
何よりも厳しい現実を。
そして僕は、今後プロゲーマーとして人に夢を見せていくために、さらに誰よりも現実を見据えていかなければならない。
先人プロゲーマーと対等に話す自信と実績を持つために。
ゲーマーを支えてくれる幅広い分野の人達の期待に応えるために。
もっと僕は力を持たなければならない。
揺れぬ誇りを持たなければならない。
さらば、ラスベガス。
来年はきっと、もっと大きくなって会いにいくよ。